プロメテウス(2012年・アメリカ) [2013年 レビュー]
原題:PROMETHEUS
監督:リドリー・スコット
脚本:ジョン・スペイツ、デイモン・リンデロフ
この映画の成り立ちを今日まで知らずに観ることが出来た僕は幸運だった。
劇場公開時のコピーは「人類はどこから来たのか」だった。続けて「人類最大の謎、それは《人類の起源》」とも。
これを日本の配給会社が付けたのなら、その宣伝部の勇気に拍手したい。なぜならこれを「意図的なミスリード」と憤る人もいたと思うからだ。
僕が憤るどころか、逆に感心している一番の理由は、そんなコピーであっても途中までは“受け売りの疑問”を抱いたまま、充分に観ていられたからだ。一定の年齢を超えていて勘の良い人なら「これってもしや…?」と早い段階で気付いたことだろう。僕もそう思わないでもなかったが、そのタイミングはずいぶん遅かったし、結果的にはラストシーンで「そういうことか!」と驚いたのだから、僕は勘が鈍かったおかげで結果的に得をしたことになる。アタマの回転が鈍いと世の中新鮮なことだらけだ。
2089年。世界各地の遺跡から共通するある“サイン”が発見される。それは地球外生命体からの招待状と確信した科学者のエリザベス・ショウ(ノオミ・ラパス)は宇宙船プロメテウス号で約2年の航海に出る。目的の惑星に到着した探索チームはさっそく謎の解明に乗り出すのだが…。
映画冒頭で取り上げられる「地球外生命体」からの“サイン”は、プロメテウスと観客を宇宙へ連れ出すための壮大な言い訳だ。
僕も「人類はどこから来たのか」というコピーに引きずられたから、“サイン”の謎が蔑ろにされている本編にいささか違和感を感じていた。しかし、あのコピーさえ忘れてしまえば、“サイン”の存在はただの前フリだと理解し、ストーリーが本筋(と勝手に解釈したもの)からどんどんズレて行く違和感もなくなる。ただし、あのコピーがあったからこそ僕は最後のオチに驚いたのだから、まさに諸刃の剣のようなコピーだったのだ。だから僕はミスリードされたものの憤ることなく、最後に口をあんぐり開けたというわけだ。
それにしても、さすがリドリー・スコットで、いろんなもののビジュアルが見事だった。
プロダクション・デザイン、キャラクター・デザイン、衣裳。本作はまぎれもなく「見せる」映画だったと思う。ブルーレイで観たせいもあるけれど、ファーストカットからして素晴らしく美しかった。
俳優陣で群を抜いて良かったはアンドロイド役を演じたマイケル・ファスベンダー。「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」で若き日のマグニートーを演じた役者だけれど、彼が見せた「無表情の中にある自己主張」は完璧だったと思う。
本作を観てしまうと、やはりリドリー・スコットの出世作を観直したくなる。アンドロイドがクビをへし折られて尚コミニュケーションを取るシーンは、間違いなく「エイリアン」である。
リアルタイムで観たのは1979年8月31日。高一の夏休み最後の日だった。映画ノートにはこうあった。
「寿命が3日ほど縮まった。しかし3日長く生きるより、この1本の映画を見る方が価値があるように思えた」
伝えられるものなら、この日の自分に言ってやりたい。
「33年後にこの監督がまた面白い映画を撮るから楽しみにしてな」と。
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酔拳 レジェンド・オブ・カンフー(2010年・中国) [2013年 レビュー]
監督:ユエン・ウーピン
脚本:クリスティン・トー
まさか2013年にユエン・ウーピンの名前を聞こうとは。
言わずと知れたジャッキー・チェンの出世作、「ドランク・モンキー/酔拳」(1978)の監督で、その後は「マトリックス」(1999)のカンフー・コレオグラファー(振付師)、「グリーン・ディスティニー」(2000)のアクション監督、「キル・ビル」(2003)の武術監督を務め、ハリウッドでもその名を知られることになったユエン。でもこれが監督となると1999年のテレビシリーズ「新・少林寺IV」以来。一体誰がユエン・ウーピンにやらせようと思ったんだろう。それとも彼自身の企画だったのか?
本作は「ドランク・モンキー/酔拳」でジャッキーにカンフーを教える師匠として登場した伝説の武術家、スー・サンの若かりし頃の物語、ということになってます。スー・サンは伝説上の人物であり、史実もへったくれもないのだから、これは完全なるフィクションということでいいんだろう。
時は1681年、清朝時代。戦で高名をあげたスー・サン(チウ・マンチェク)は知事の職を与えられるが、それを異父兄弟の兄ユアン(アンディ・オン)に譲り、自分は妻子と共に静かな土地で武術を極める道に入る。この義兄弟。実はスー・サンの父が、ユアンの父を殺害していた過去があった…。
スー・サンは映画の冒頭で完全無欠の武術家であることが語られます。
ルックスもいい、性格もいい、そして腕も立って、嫁さんも美人(趣味じゃないけど)。だから「なんでこの男が、わざわざ酔拳を会得することになるんだ???」と思います。
まあ、ここまではいい。
でもこの先がハチャメチャなんです。とにかくユアンのキャラが濃すぎて、ドラマの軸がブレブレになります。僕に実写版「デビルマン」を思い出させました。それはダメでしょう(笑)。
酔拳ですから当然「酔わずにはいられない」ってことでいいんですけど、そこに辿りつくまでが長すぎる!それに見世物としてのカンフーがまったくなってない。ユエン・ウーピンは完全にハリウッドで毒されて、カンフー映画の基本を忘れてしまっています。ワイヤーに頼らず、肉体重視で行きなさいよ!ワイヤーに吊ってる時間が長いと、あやつり人形みたいな動作になっちゃうから、ブルース・リーからカンフーを観ている世代には辛いんですよねえ。
本作に限っては完全に邦題にダマされました。まったく観る価値なしの1本です。
ピラミッド 5000年の嘘(2010年・フランス) [2013年 レビュー]
原題:LA REVELATION DES PYRAMIDES
監督・脚本:パトリス・プーヤール
「5000年の嘘」とはなんとも派手なタイトルである。原題は「ピラミッドの暴露」。
邦題を聞いたとき、5000年もの間、ピラミッドのことについて誰がウソをついてきたのだろう、と思ってしまった。そもそも何が本当で何がウソなのかすら分からないのに。
ギザの三大ピラミッドを実際に見たことがあるかないかで、関心の度合いも違うと思う。この映画がアメリカではなく、フランスで作られたのも、ピラミッドとの距離感によるところが大きい。幸いなことに僕は一度だけピラミッドを見たことがある(正しくは一度ではなく、5日間あらゆる角度から見続けたのだけれど)。そして見れば誰もが同じ疑問に行き当たるのだ。
「誰が、何のために、どうやって、この巨大建造物を建てたのか?」
一般的に知られる仮説は王の墓である。それをエジプトの民が(建築方法は謎だが)20年で完成させたということになっている。本編の「5000年の嘘」は、この定説にかかっていると言っていい。
僕は元エジプト考古庁長官のザヒ・ハワス博士が、クフ王のピラミッドは「クフ王の墓」であると信じて、中からクフ王のミイラを発見することに情熱を燃やしていたことを知っている。
しかしこの映画は王墓説を完全に否定している。
ではピラミッドの正体をなんと説いているのかというと、それについては何も無いのだ。
何を隠そうこの映画は、広く知られた仮説を否定しながら、しかしそれに代わる新説を提示しないという、なんともおかしな映画なのである。
いささか強引な事実関係の提示はある。
そのひとつが「赤道と同じ長さで、30度傾いている幅およそ100キロの円周上に、数多くの遺跡が並んでいる」というもの。
ナスカ、マチュピチュ、クスコ、ペトラ、モヘンジョ・ダロ、スコータイ、アンコールワット、イースター島。これらはそれぞれの位置が黄金律と関係していて、ピラミッドの2辺の和は自転速度に等しいなどなど。
映画では何を言わんとしているかというと、「地上から消えた古代文明の警告」らしい。じゃあその「警告」とは何なのか。それは教えてくれない。本編ナレーションに「疑問だらけでめまいを覚える」とあるのだけれど、「疑問を解決してから映画にしてくれ!」と思ったのは僕だけだろうか。
そもそもナレーションの情報量が多すぎて、字幕についていくのが精一杯。画を見る余裕はほとんどなく、突飛なハナシを理解する暇もない。
近年観終わったあとに、これほど「で、なんだったの?」と思った映画もなかった。
ただただ疑問と疲労が残るだけ。回避が賢明。
裏切りのサーカス(2011年・イギリス/フランス/ドイツ) [2013年 レビュー]
原題:TINKER TAILOR SOLDIER SPY
監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:ブリジット・オコナー、ピーター・ストローハン
雰囲気はすごく良い映画なんですけどねえ。原作を読んでないとまったく面白くない映画の典型です。
時は東西冷戦下。イギリスのMI6(通称サーカス)とソ連のKGBは様々な情報戦を繰り広げていた。
そんな中、MI6のリーダー“コントロール”(ジョン・ハート)は、内部に二重スパイ「もぐら」がいることを確信するも「もぐら」を捕まえる作戦に失敗。コントロールは右腕であったスマイリー(ゲイリー・オールドマン)とともに引退を余儀なくされる…。
と、これくらいのことも、実はよく分からずに観ていました。
繰り返しますけど、本当に雰囲気はいいんですよ。絵の切り取り方もキレイだし、含みを持たせたカットの積み重ねが、質のいい小説を読んでいるような気にさせてくれます。だから行間を読む愉しさもあるとは思うのですが、行間の前後の文脈を理解していなければ、この“良さ”はまったく分からない仕上がりになっていましたね。
何の予備知識もなく観た僕は、とにかく分からないことだらけで、それを確認するために公式サイトを事後に覗いたのですが、そこでビックリ!。映画サイトにありがちなメニュー項目、作品情報、ニュース、劇場情報、予告編、などと並んで「必読」というメニューがあるじゃないですか!。で嫌な予感も感じつつ、クリックしてみたら「鑑賞前:ご一読下さい」という大見出しの下に、「本作の徹底した<リアル>を楽しんで頂くため、以下情報を鑑賞前にご一読頂くことをお勧め致します」と小見出しを付けて、ストーリーの概要をがっつり紹介してる。
こらー!だったら「原作未読じゃムリ」くらいのPR打たんかい!GAGAさんよぅ。まったく損したわ。
でも、原作読んでたら、相当面白かったんじゃないかなあ。だって原作読んでない人はゼッタイ相手にしてない作りだもん。原作読んでる人に「そう来たかあ」と言ってもらいたいような作りだったと思いますもん。だから原作を読んでない僕は“完全に置いて行かれた”客でしたね。伏線の妙も、ラストカットのカタルシスもまったく分かりませんでした。残念。
キャスティングも良かったんだけどなあ。原作読んでからもう一度観ようかなあ。
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レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳(2010年・中国) [2013年 レビュー]
原題:精武風雲・陳真/Regend of The Fist:The Return of Chen Zhen
監督:アンドリュー・ラウ
脚本:ゴードン・チャン、チェン・チーシン
新年1本目は今年もカンフー映画です(笑)。
「イップ・マン」のドニー・イェン主演、「インファナル・アフェア」のアンドリュー・ラウ監督によるカンフーアクション。ドニー・イェンは今一番美しいカンフーを見せてくれる役者ですから、ちょっと期待してしまいました。で、本作を観るとよく分かります。「カンフー映画はカット割りが命」であることが。
ドニー・イェンが演じているのは、ブルース・リーが「怒りの鉄拳」で演じて以来、中華圏で圧倒的な人気を誇る架空のキャラ、チェン・ジェン(陳真)。そういえばジャッキー・チェンもやってましたし、ジェット・リーも演じたことがあるそうです。なぜそれほど人気があるかと言うと、観たことのある人なら一発で分かるはず。日本人がコテンパンにやられるからです(笑)。
上海で抗日組織に身を置くチェン・ジェン(ドニー・イェン)は、日本軍の情報を得るために各国要人が集まるナイトクラブ「カサブランカ」のオーナー、リウ(アンソニー・ウォン)に近づき、やがて腹心となる。一方、チェン・ジェンたちのレジスタンス活動に手を焼く日本軍は、反日中国人処刑者リストを発表し、街を混乱に陥れる…。
観ていてまず驚いたのはライティング。
ホントにビックリするほど、ありとあらゆるところに照明が当たってます。特にカサブランカを中心とした上海の街並のセットはあり得ないくらい明るい。これって「金かけて大きなセットを組んだんだから全部見せたい」っていう貧しい発想なんじゃないかと思います。もっと陰影があったほうがゼッタイに良かった。派手なライティングのせいでミュージカル風な映像になってしまい、ことセットに関してダークなイメージは皆無だからです。
「カット割りが命」と言ったのは、「金をかけて作ったセットを見せたい」という何者かの意思が働くあまり、「カンフーを見せる」というファーストプライオリティが崩れ、結果的に中途半端なカット割りになり、せっかくのブルース・リーリスペクトも台無しになっていたからです。
カンフーシーンの基本は「組手をキチンと見せる」に尽きます。
四肢を駆使した肉弾戦をいかに激しく、美しく、痛みを伴いながら見せるかが勝負なのですが、本作はそれが出来ていません。ドニー・イェンは「グリーン・ホーネット」のカトーをリスペクトした「仮面の戦士」に扮したり、ヌンチャクを使うシーンまで用意されているのですが、残念ながら心に迫るものが無い。それは本来見せるべきもの、“美しいカンフー”よりも、ゴージャスなセットを見せようとしてしまった監督の演出ミスだと思うわけです。
脚本も実はイマイチでした。
ある登場人物が日本軍のスパイという隠し設定になっているのですが、その駆け引きがまったくなってない。「インファナル・アフェア」を撮った監督とは思えないほど、その関係性はフニャフニャです。
あっちもこっちもとにかく「もったいない」映画でした。あー、ドニーのナイスなカンフー映画が観たい!
見逃していたら絶対オススメの10本〜2012年版〜 [2012年 ベスト10]
あけましておめでとうございます。
皆さん、2012年はどんな年でしたか?
僕は多分10年ぶりに映画を観た本数が100本を切りまして、結果ブログとの関わり方も大きく変わった年でした。
映画鑑賞の本数が激減した理由は、単純に「映画に割ける時間が減った」から。
ぶっちゃけ今は仕事以外に、2歳のムスメに付き合う時間を捻出したら、1日が終わります。これでも睡眠時間は削っているので、さらに映画を観る時間を作ろうと思ったら、あとは命を削る以外に方法がありません(笑)。
ブログとの関わりが減ったのはfacebookとtwitterの影響もあります。
2つのソーシャルメディアを使っていたら、ブログで発信することはなかなかありません。なのでブログで発信するのは映画のレビューだけになりつつあります。
ところが。
そんな最中にアクセス累計が300万を超えていました。月に2、3度しか更新していないブログに成り下がったのに、本当にありがたい限りです。読者でいて下さる122名の皆さまには特に感謝申し上げます。
感謝のお礼にtwitterのアカウントを公開します(笑)。興味のある方は【@redhelmet082】を検索してみて下さい。大したことはつぶやいてませんけど。
それともうひとつ。
僕は昨年「しまのえいがの映画祭」というイベントを立ち上げました。そのfacebookページのアカウントも公開します。【www.facebook.com/shimanoeiga】これは日本の離島を題材にしたショートムービーを、島の人たちと協力して作り、島の善さを理解してもらうために多くの人に観てもらおうというイベントです。今年僕も1本、ショートムービーを制作しようと思っています(お手伝いしてくれるスタッフ募集中)。
と、そんなこんなで忙しくしておりまして、今年も100本には届かないかも知れません。でも「ナニミル?」を閉じるつもりはありませんし、本数が少なくなればなるほど、より打率を上げて行きたいと思っておりますので、今年もヨロシクお願い申し上げます。
さて前口上が長くなってしまいました。
2012年はたった79本の映画しか観ていないのですが、それでもオススメの10本をご紹介したいと思います。ではどうぞ!
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アベンジャーズ(2012年・アメリカ) [2012年 レビュー]
2012年は映画と少し距離の空いた1年になってしまいました。
アベンジャーズがどういうチームかはもちろん知ってます。
これは、過去最高に納得出来ない善と悪の対立構造。
結果、観るのに2日かかっちゃいました。あー、こんな映画を最後に観ちゃったよー。
最後の最後にこんな映画をチョイスした自分を呪います。
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綱引いちゃった!(2012年・日本) [2012年 レビュー]
監督:水田伸生
脚本:羽原大介
映画はムーブメントを起こせるかどうかで、成績が決まると言ってもいいと思います。
だからブエナビスタを筆頭にハリウッドの主要スタジオは、周到なマーケティング・リサーチをするのでしょうし、多くの作品のPRから「負け戦をする気など毛頭ない」という強い意志を感じたりするのです。
ところがそれでも大コケするときはする。
そりゃそうです。映画は企画から公開までに2年以上のタイムラグがある。公開時の“風”を完璧に読める人なんていません。だからこそ映画にはムーブメントを起こせるだけの力がゼッタイに必要なのです。
にもかかわらず、本作の場合「綱引き競技」にベットしようとした理由が、僕には最期まで分かりませんでした。
大分市役所に勤める西川千晶(井上真央)は、大分市の知名度を上げたい市長(風間杜夫)の思いつきで、急造の綱引きチームを結成することになる。かつて大分市には綱引きで世界チャンピオンになった女子チームがあり、大分市のPRに貢献した経緯があったからだ。しかし募集をしてもメンバーは集まらず、千晶は母・容子(松坂慶子)が勤める給食センターの女子職員に目をつける…。
競技綱引きは運動会の綱引きとは大きく違って、高度なテクニックと戦略を要する、実はスゴく面白いスポーツです。僕も実際に観たことがありますが、力勝負かと思いきやメンタル、チームワーク、コンディションが大きく影響する競技で、その奥深さに驚いたほどです。
スポーツドラマは、それこそ本当に急ごしらえの俳優たちで、どこまでリアリティを追求出来るかが永遠のテーマなのですが、競技綱引きも相当に高度なスポーツと見えて、本作はいわゆる「スポ根ドラマ」ではなく、人情ドラマになっていました。つまりドラマに勝敗が一切絡まないのです。
無理だったんでしょうね、「ロッキー」的な展開は。
「1本の綱に全員の想いを込め、絆を深める」というメッセージは分かります。でも安直じゃないですかね。競技綱引きの面白さを掘らないのなら、競技綱引きにベットする必要は無かったと思います。作り手に「綱引きをメジャーにしたい」という思いさえ見えないのですから。
残念ですが「2時間ドラマ」レベル。
唯一、玉山鉄二のハチャメチャなキャラとアドリブだけが見物。
エンディングノート(2011年・日本) [2012年 レビュー]
撮影・編集・監督:砂田麻美
日本のドキュメンタリー映画としては「ゆきゆきて、神軍」(1987)以来、2作目の【興行収入1億円】を突破した作品なのだそうです。そう聞いてしまうと遠い昔に「ゆきゆきて、神軍」も観たドキュメンタリー好きとして、これは避けて通れません。
日本の高度成長期を支えたサラリーマン砂田知昭は、会社を引退した2年後に胃がんの宣告を受ける。毎年検診を受けていたにもかかわらず、発見されたときにはすでに手遅れの状態。医者から“残り時間”まで教えられた元営業マンは、自分の最期を段取ることにした。そこでまず着手したのがエンディングノートの作成だった…。
監督は主人公・砂田知昭さんのムスメ。
学生時代から是枝裕和氏の下で映画作りに関わっていた彼女に取っては、「これ以上ない素材が身内から出て来た」ことになります。少なくともお父さんが“段取り命”の人でなかったら、エンディングノートを書かなかったら、この映画は成立していないワケですから。
とは言え、うかつに「感動的」というありふれた言葉では片付けられないほどよく出来た作品でした。
もちろんプロデューサーを務めた是枝監督から、的確なアドバイスが多々あったことでしょう。それでも実の父の“終活”を、善くぞここまで冷静に描き切れたものだと感心します。
観れば分かってもらえると思いますが、被写体の父と撮影者の娘が冷静だからこそ、このドキュメンタリー映画は「見世物」として成立していると思います。
対照的なのは女優・林由美香の最期に迫った「監督失格」。この作品は監督・平野勝之の“心の揺れ”を「見世物」にした作品でした。主観で描くか、客観で描くかによってで、ドキュメンタリーは大きくその姿を変えるのですが、もしもエンディングノートが主観で作られていたら、観客はその“重さ”に耐えられず、きっと直視するのも辛い作品になっていたでしょう。
客観描写されているとは言え、ゴールに「死」があると分かっているからこそ、観客はやがて息を呑んで主人公とその家族の様を見つめることになります。まして(僕もそうですが)実の父をすでに亡くしている観客は、心を鷲掴みされるような哀しみを覚えるはず。しかし本作で観るべきは、そういった家族の哀しみ様ではなく、「人間は何を成すためにこの世に生まれて来たのか」という永遠の問いではないかと思います。
僕は砂田友昭さんをサムライだと思いました。
慌てず騒がず宿命を真正面から受け容れようとする姿に、日本人の美学を観ました。もちろん時には弱い部分も見せますが、自分よりもまず家族を想い、労り、愛情を注ぐ砂田さんの姿は、同じ日本人として誇りに思えるほどでした。
「死」はすべての人に平等に訪れる最期のビッグイベント。
自分の最期を見つめると、実は明日からの生き方にいい影響を与えるのではないでしょうか。少なくとも僕は「明日死んでもいいように、ムスメとは全力で遊ぶ」と決めました。
秀作。
ニッポン無責任時代(1962年・日本) [2012年 レビュー]
脚本:田波靖男、松木ひろし
野田総理の電撃的な衆院解散宣言から政界が揺れている。
そんな中で一番呆れるのは、議員バッチ欲しさに勝ち馬に乗ろうとする、あるいは沈む船から逃げようとするネズミ以下の連中だ。特に民主党を離党し日本維新の会に合流した奴らは、信念の欠片も無い「政治家」ならぬ「政治屋」である。
どうしてこんなに無責任な連中が国会にノサバっているのかと思ったら、ふとこんな作品が観たくなった。11月10日にクレイジーキャッツのメンバーだった桜井センリさんがお亡くなりになったニュースを耳にしたせいもあっただろう。
植木等が歌う「無責任一代男」と「ハイ、それまでョ」がこの作品の劇中歌であることは知っていた。しかし映画そのものは未見で、2つの歌からしてどれほど豪快な内容かと思っていたが、観るとこれがセコい詐欺師のようなハナシで、永年抱いていた想像とは大きくかけ離れた作品だった。
とある会社をクビになったばかりの平均(たいらひとし/植木等)は、バーで「太平洋酒が乗っ取られそうだ」というハナシを耳にする。それを聞いた均は太平洋酒の社長に近づき情報を提供。均は社長が懇意にしていた政治家の名前まで持ち出して、太平洋酒の社員として会社に潜り込むことに成功する…。