アイアンマン2 [2010年 レビュー]
「アイアンマン2」(2010年・アメリカ) 監督:ジョン・ファヴロー
「原作モノの映画と言えど、読まずとも愉しめなければ映画にあらず」
これは僕の永年の持論だ。今も変わらない。
きっと80年代の角川映画に触れて育ったからだと思う。
角川春樹事務所が制作していた時代の角川映画は(作品のクオリティはともかくとして)、ひとつだけ高く評価できる点がある。日本映画史的には「映画でメディアミックスを成功させた一例」となるのだが、個人的には「映画と原作がもたれ合うことなく、独立した作品として成り立っていたこと」こそ評価すべきだと思っている。もちろん大半は原作から先に世に出ているから、正しくは「映画が原作を頼っていなかった」だが、その企業姿勢は「人間の証明」(1977)公開時の有名なキャッチコピー、「読んでから見るか、見てから読むか」にも表われている。
近年の原作モノ映画は、その大半が原作本のヒットに便乗する形で成り立っているが、80年代の角川書店と角川映画はこのキャッチコピーからも分かるとおり、「映画が面白かったら、原作もぜひ」という姿勢だったのだ。と言うことは、「読まずとも面白い映画」でなければ文庫本のセールスにはつながらない。だからこそ角川映画は、原作にもたれない映画作りを目指していたのである。
僕は角川春樹のこの姿勢を今も高く評価している。そして気が付けば僕の持論になってしまった。
そんな理由から、「アイアンマン」はおもいきり酷評した。
原作に触れていなければ、理解し難い世界観に満ち溢れていたからである。それはまるで「一見さんに親切じゃない老舗料理屋の新装オープン」みたいだった。
ところが「アイアンマン2」は、この人が出てると聞いただけで観たくなった。
スカーレット・ヨハンソンである。
目を疑うファンもいるはずだ。
「マトリックス」のトリニティーのようなポーズを決めたこの女子がスカーレット?!
原作を読んでいようがなかろうが、僕の中では関係なくなってしまった。原作にスカーレット演じるキャラがいるのかどうかも関係ナシ。つまり僕の中でこの作品は「原作に頼らない(極端に言えば、原作なんてどうでもいい)映画」にカテゴライズされてしまったのだ。
確かに原作を知らなければキャッチできない情報も数多くまぶしてあっただろう。それを前作では批判したのだけれど、本作に限っては興味すらなかった。僕はスカーレットの一挙手一投足を見逃すまいと必死になっていたのだ。
そうは言いつつも。
単にヒーローとしてだけでなく、巨大軍需企業の社長であるが故に見舞われるトラブルや、プライベート上の問題など、「スーパーマン」や「バットマン」とは異なる背景に慣れて、ハードルが低くなったのも事実。さらにミッキー・ロークの存在も大きく意外と愉しめてしまった。
「アイアンマン」は「アベンジャーズ」へとつながるプロジェクトでもあり、この辺りをもう少し上手く宣伝すれば、日本での興行成績も変わったと思うのだが、どうだろうか。
個人的には次回作にもスカーレットの登場を望むばかりである。彼女のアクションを観るだけで心が満たされる(笑)。
プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂 [2010年 レビュー]
パリ行きNH205便のイチオシ映画は、今年リメイクされた「ベスト・キッド」だった。
オリジナルが日本で公開されたのは今から25年前。この年「ポリス・ストーリー/香港国際警察」で監督・主演を務め、その人気を不動のものにしたジャッキー・チェンが、四半世紀後にまさかパット・モリタの演じた役をやろうとは。
時の流れと共にうつろうジャッキーの俳優人生を見つめてきた僕たちは、是が非でも観なければならない作品だと思い、数ある機内上映から迷わずチョイスしたが、どういうわけか北京語に字幕がついていない。ついていたのは英語字幕だった。残念。これは近いうちに必ず観よう。
枕が長くなった。チョイスの理由は主演のジェイク・ギレンホールである。
「ブロークバック・マウンテン」「ジャーヘッド」「ゾディアック」と観る限り、ナイーブな役どころが巧い俳優が、ジェリー・ブラッカイマーのアクション映画の主演である。そもそも、このキャスティングは意外だった。作品としてはあまり興味がなかったのだけれど、ジェイクのキャスティングがどれほどはまっているかが知りたくて観た。
古代ペルシャを舞台に、“時間の砂”を操ることが出来る短剣の争奪戦を描いたアクション・アドベンチャー。ジェイク・ギレンホールが演じるのはスラム出身ながら養子として王宮に迎えられた第3王子のダスタン。彼と行動を共にするのは“時間の砂”を邪悪な者から守る使命を与えられた聖なる都アラムートの姫タミーナ(ジェマ・アータートン)。王を亡き者にし、自ら国を支配しようと企む叔父のニザムにベン・キングスレー。この重石が効いていてドラマはなかなか魅せるが、いかんせんヒロインのジェマ・アータートンがまったくそそらない。一昔前ならゼッタイにキャサリン・ゼタ=ジョーンズにやって欲しい役どころだが、今はこの手をやれる女優がいないのか。ここにいい女優がはまっていないだけで僕の中では大きく減点。惜しい。
一方ジェイクは素晴らしく良かった。一番良かったのはビジュアル(笑)。意外と脱いだらスゴかった美しい筋肉は、きちんとトレーニングしたあとが見えて、そんなところも好感が持てた。
映画として。
設定が設定だけに当然デジタル処理されたカットが全編を支配しているが、舞台設定が現代じゃないから許せてしまった。おそらく砂漠シーン以外は世界中どこへ行っても撮影のしようがないだろうし、ゼロから作るしかない映画なら全編デジタル処理も致し方なし、という価値観を僕は持っているんだろう。言うなればCGアニメーションと変わらないというワケだ。
ただ脚本には一言ある。
本作は父親殺しの汚名を着せられたダスタンが、その真相を暴くために旅する物語である。そこに“時間の砂”という魔法のアイテムがあって、観客は当然「父を生き返らせる瞬間がいずれ来る」と期待をしている。つまり結果はさておき、「ではどうやって途中楽しませてくれるのか」という思いでいるのだ。結論から言うと途中はまずまず楽しめた。とすれば、あとは落とし前のつけ方さえ間違わなければ作品としては成功である。
ところが。
観客が「当然」とイメージしていた結末に至らないのだ。これだけは大きな不満として残った。「ベタなシーンを入れるまでもないだろう」という製作者たちの思いは伝わらなくもないが、「あって当然」と思っていた僕にはちょっと肩透かしを食った気分。
ただ機内上映で映像のスケールを満喫できなかった分、脚本にシビアになったかも。
ジェイクファンには確実にオススメ。
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G.I. ジョー [2010年 レビュー]
パリ行きの予習映画第2弾。
ハリウッド産だが、予告編にエッフェル塔が豪快に倒れるカットがあったので、もしや歴史に嫉妬するアメリカ人がパリの街をこれ見よがしに壊しているんじゃないか、と思い出して観てみる。
「トランスフォーマー」のヒットに舌なめずりしたパラマウントが“2匹目のどじょう”を狙った映画でもある。往年の玩具をモチーフにし、80年代アメリカでテレビ放映されたアニメ、「地上最強のエキスパートチーム G.I.ジョー」を下敷きにしているそうだ。
ま、何にせよ「悪さする連中(コブラ)と、それを阻止しようとする連中(G.I.ジョー)の攻防戦」であることは間違いない。だから頭を使わずに観ていられる。
「トランスフォーマー/リベンジ」のときに書いたとおり、もやはデジタルに不可能はない。かと言って何をやってもいいワケではない。やりすぎると確実にリアリティを失い、作品のクオリティは低くなる。
本作もどちらかと言えば「やりすぎ」の部類に入るが、登場人物の背景にちょっとしたひねりが2つ加えられていて、この変化のつけ方は個人的に気に入った。
ひとつはイ・ビョンホンが演じた殺し屋、ストーム・シャドウと、G.I.ジョーチームのスネーク・アイズが、幼い頃共に日本の同門で修行をしていたという設定だ(プロダクション・デザインが久々に“間違いだらけのニッポン”で笑える)。
幼き頃の2人は実力で言えばストーム・シャドウが上だったか、2人の師匠はどういうわけかスネーク・アイズに目をかけていた。それに嫉妬したストームは、やがて師匠を殺害して逃亡。それから長い時を経て2人は邂逅を果たす…。
これは僕の勝手な想像だが、この設定はイ・ビョンホンのために相当膨らませたんじゃないかと思う。もしかしたらイ・ビョンホンサイドから出た出演の条件(あるいはリクエスト)だったかも知れない。彼にとっては例えハリウッドデビュー作とは言え、キャラクターとして何の厚みもない、ただの殺し屋だったら引き受けなかっただろう。対するスネーク・アイズが顔を完全に隠したキャラだったのは、持ち上げすぎた韓国人の“太刀持ち”にならないための配慮じゃないかと思ってしまった(笑)。
もうひとつは主人公デューク(チャニング・テイタム)と、敵の女スパイ・バロネス(シエナ・ミラー)は、かつて結婚を約束した2人だったという設定。こういう設定は珍しいわけじゃないが、オープニングまもなく明らかになる2人の関係が、少なからずドラマを牽引したのは間違いないだろう。2人が敵味方に分かれて戦うことになった事情も聞かされてみればまずまず納得で、「意外と締まったな」というのが正直な感想だった。
ところどころ「スター・ウォーズ」をリスペクトしたようなカットがあったのも面白かった。
例えば、ルークがミレニアム・ファルコン号のレーザー砲を使うシーン。デススター内部でオビ=ワン・ケノービがシールドを外すシーン。クワイ=ガン・ジンとダースモールが闘うシーンなどを髣髴とさせるシーンがあるのだ。極めつけはコブラコマンダー。どう観てもダースベイダーである。
調べてみたら監督のスティーヴン・ソマーズは僕より1歳年上の48歳。やはり「スター・ウォーズ」オマージュに違いない。
「トランスフォーマー」と比べたらどうか。
キレイなネエチャンが2人出てた「G.I.ジョー」に軍配。その程度(笑)。
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オカンの嫁入り [2010年 レビュー]
大竹しのぶと宮﨑あおいが初共演とは知らなかった。
これが「大奥」のような作品なら気にも留めないが、タイトルから想像できる通り、構えの小さな作品である。観ると実際“自転車で行ける範囲内”の物語でしかなく、この小さな土俵で大竹しのぶと宮﨑あおいはがっぷり四つだった。
2人をツモれたプロデューサーは大金星である。役者のカップリングで観に行く気になったのも久しぶりだ。
陽子(大竹しのぶ)と月子(宮﨑あおい)はずっと母ひとり子ひとりで暮らしてきた仲の良い親子。
ある日の深夜。泥酔した陽子が“おみやげ”を持って帰ってくる。叩き起こされた月子が玄関口まで下りていくと、そこにはダサイ服に金髪リーゼントの見知らぬ若い男がいた。名前は研二(桐谷健太)。陽子は研二にプロポーズされ、今夜それを受けたのだという。
いい映画である前に、いい脚本だった。
ずいぶん時間をかけて丁寧に書いたあとが見てとれたので、エンドロールの後まずは無名の監督のことが無性に気になった。
呉美保は大林宣彦事務所でスクリプターとして働いていた33歳。スクリプターをしながら制作した2本のショートフィルムが認められ、さらに初の長編脚本が「サンダンス・NHK国際映像作家賞/日本部門」を受賞し、29歳にして「酒井家のしあわせ」で長編デビューをしている。
女性監督と言えば近年活躍が目覚ましい西川美和、河瀬直美、荻上直子、タナダユキを思い出すが、やはり男性の監督とは違う女性ならではの視点がときどき可笑しくて、ときどきギョッとさせられる。男と違った“おもいきりの良さ”も女性監督作品の愉しみの一つだ。
呉美保の脚本で僕が気に入ったのは、考え尽されたキャラクターの背景にある。
一番は健太。元板前がなぜ金髪リーゼントに赤いジャンパーなのか。
呉美保は序盤観客に「コイツ、ただのアホやわ」と思わせておいて、アホも馴染んで来たころにその“種明かし”をしてみせた。僕は完全にやられた。不意打ちを食らって不覚にも涙が出た。健太の心根の優しさを知った観客は、この瞬間に月子から陽子へ「感情移入の乗り換え」を果たすと思う。別の言葉で言うなら「視点の入れ替え」である。
主人公が2人いて最初はAさんに、途中からBさんに感情移入をさせるテクニックは極めて高度なテクニックである。この“乗り換えポイント”の作り方は見事だった。
「映画は目に映るすべてのものに意味がなければならない」
これは映画に対する僕の持論だが、画面から得られる情報に対して、観客が抱いた「なぜ?」を、流れの中でひとつずつ潰していくことが出来れば、観客はきっと気持ちいい。これがいい脚本の条件じゃないかと思った。
大竹しのぶの白無垢と、クライマックスのやりとりには少々不満もあるが、都会では失われた心を通わせるご近所付き合いも丁寧に描かれた佳作。
吉田孝の美術も良し。下町特有の温かさが画面のいたるところからにじみ出ていて、昭和世代は心がほっこりすること間違いなし。
PARIS [2010年 レビュー]
来週16年ぶりにパリへ行く。2度目のパリ。一人旅。
娘が産まれて間もないので後ろ髪引かれる思いも若干あるが、今回はルーブル、ポンピドー、ベルサイユと美術館巡りをする予定なので、実は愉しみでもある。
初めてのパリは31歳のときだった。当時の僕はまだアメリカン・カルチャーに夢中で、ヨーロッパにはまったく関心が無かった。「ヨーロッパを愉しむのはもう少し歳をとってからでいい」と勝手に思っていたくらいだ。
ところが、いざパリに降りてみると、アメリカとは比べ物にならない“文化の年輪”に、僕は心を鷲づかみされてしまう。パリに比べたらアメリカは赤子同然だった。
あれからパリはどう変わっただろう。
そんなことを確認したくて、2008年の本作を観る。主演はジュリエット・ビノシュ。僕は彼女が出ているというだけで期待をしてしまう。
群像劇。
心臓病を患い、移植手術を受けなければ余命わずかと言われた元ダンサー。
その姉、女手ひとつで3人の子どもを育てる社会福祉士。
年甲斐もなく教え子に恋をした歴史学者。
離婚後も同じ市場で働く元夫婦。
兄を頼りに不法入国をたくらむカメルーンの少年。
…タイトルからストーリーが想像できないだけに、途中ドラマの向かう先が見えなくて困った。群像劇もたとえば「恋愛」とか「クリスマス」といった明確なテーマがないと見にくいものらしい。最近は娘のケアで寝不足気味ということもあり、僕は途中何度も落ちそうになった。
しかし、決して悪い映画じゃなかった。観かたさえ間違わなければ「佳作」と評価することも出来る。ではどう観るのがいいか。一見何の脈略もない登場人物たちだが、彼らにはある共通点があった。
それは「小さな不満を抱えている」こと。
観客はそんなパリ市民を見守ることになる。そして無作為に選ばれた登場人物たちを“串刺し”にするのが、心臓病を患うムーラン・ルージュの元ダンサー、ピエールである。
エンディング間近。ピエールの漏らす一言が金言。そこで多くの観客は自分の置かれた立場を理解するだろう。自分がいかに幸せであるかを。
ジュリエット・ビノシュはとても魅力的。ぼさぼさのヘアメイクも決まっていて、中年女性の色気をときどき感じさせてくれた。
発見だったのは「イングロリアス・バスターズ」で見い出したメラニー・ロランが出演していたこと。観ようと思った映画に自分好みの女優が2人も出ていたら、それだけでもう満足。
「PARIS」というタイトルの割に、美しい景観が少なかったのはちょっと残念。
来週この目で確かめよう。
トランスフォーマー/リベンジ [2010年 レビュー]
こんなしょーもない映画が2009年の全米興収2位にして、歴代全米興収11位とは驚きである。
作る阿呆に観る阿呆。世も末だと思いながら僕も観てしまった。
ではどうして観てしまうのだろう。
単純に頭を使わなくていいのだ。
特に予定もない週末に半ば暇つぶしに見るには悪くないポップコーン・ムービーである。ちなみに僕は自宅のソファにひっくり返ってキャラメルコーンをほお張りながら観た。ついでに後半は眠くなってうたた寝した。内容なんて特にどうでもいいのだ。キレイなお姉ちゃん(ミーガン・フォックスだけは今回もイイねえ)が出てて、映像が派手ならそれでよし。僕がコレを観る気になったのも、トランスフォーマーがカフラー王のピラミッドの頂上で暴れてる絵があまりに馬鹿馬鹿しくて、「どこまでやってくれるのか」観たくなったからだ。
今回はこのピラミッドだけでなく、エジプトの遺跡をトランスフォーマーたちがバカバカ壊すのだが、この良く出来た映像を観ていると、「もうCGで出来ないことなんてないんだな」と思った。けれどそう思ったら「中味がなくて何が映画だ」と改めて思った。
「第9地区」のすぐあとに観たこともあって、「こんな映画が歴代興収11位なんて、とアメリカ人は大丈夫か?!」と心配になったけど、調べてみたらゴールデン・ラズベリー賞のワースト作品賞、監督賞、脚本賞が授与されていた。ああ、良かった(笑)。
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ジャガーノート [2010年 レビュー]
TSUTAYAで面白い企画をやっている。
「100人の映画通が選んだ本当に面白い映画」
その100人って誰なんだ、という疑問は若干あるけれど(だってオレじゃないし)、並んでいるのは僕の世代には懐かしいタイトルが多い。
一番懐かしかったのは「コーマ」。マイケル・クライトン監督、脚本の医療サスペンスで、ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド、マイケル・ダグラス主演の映画。僕はこれを中学のときに観て、テーマと内容の面白さに感激した記憶がある。日本では1978年に公開された映画だが、それが2010年になってTSUTAYAの一番いい場所を陣取っているとは、なんとも感慨深い。
そんな中から「ジャガーノート」を選んだのは、タイトルは知っていたけれど観たことがなく、当時大好きだったリチャード・ハリス主演だったから。「CGがない時代だからすべてがホンモノ」というコピーにもグッと来た。ではどんな映画なのか。
そもそも「ジャガーノート(juggernaut)」とは止めることの出来ない巨大な力、圧倒的破壊力の意味を持つ単語らしい。なるほど、ジャガー横田のネタ帳じゃないことは分かった。
豪華客船ブリタニック号がサウザンプトン港を出航し、北太平洋の真ん中に差しかかった頃、“ジャガーノート”を名乗る男から船に時限爆弾を仕掛けたと、船主に連絡が入る。犯人の要求は50万ポンド。しかし船主から連絡を受けた政府、海軍、警察は身代金は払わないと決める。
船に家族を乗せたマクレオド警視(アンソニー・ホプキンス)は地上での捜査を開始。一方で爆発物処理班が派遣される。ファロン中佐(リチャード・ハリス)率いるスペシャルチームはヘリからダイブし船に乗り込むが、処理作業は難航を極める…。
この作品の見どころは2つ。
まずはCGのない時代に撮られた“本気”カットの数々。洋上の客船でホンモノの爆発をさせるわ、荒れる北太平洋にスタントマンを飛び込ませるわ、いちいちホンモノでいちいち驚く。当時の映画人は皆、汗をかいて仕事をしていたのだ。
そして、「青と赤、2本の導火線。切るならどっち?!」のクライマックス。のちの映画やドラマに影響を与えた、この“究極の選択”は「ジャガーノート」から始まっていたのである。僕にはそれだけでも驚きだった。
個人的には、もっとグランドホテル形式を強調しても良かったのでは?と思ったけれど、緊張感の与え方は尋常じゃなく良かったと思う。間違いなく映画史の1ページを飾る作品。
TSUTAYAのこのシリーズ。他の作品も観てみよう。
ネバーセイ・ネバーアゲイン [2010年 レビュー]
奇天烈な映画である。
主人公はジェームズ・ボンドを名乗り、それをショーン・コネリーが演じているが、これは007シリーズ作品ではない。だからガンバレル・シークエンスもなければ、「ジェームズ・ボンドのテーマ」も流れない。なぜこんな作品が産まれることになったのか。すべては原作者イアン・フレミングのフライングが原因だが(007の共同脚本を自身のオリジナル小説として発表してしまった)、複雑な話なので興味のある人はwikiあたりで調べるといいだろう。
ともかくこれは「007シリーズとは無縁の、独立したボンド映画」である。
その内容も奇天烈である。
まず脚本が酷い。ストーリーはショーン・コネリー12年ぶりの復帰に合わせて、ボンドも久しぶりの現場復帰という設定になっていて、ボンドは新任のMに「まず、その身体をなんとかしろ」的なことを言われる。確かにプレタイトルを観た客は、ショーン・コネリーのだらしない身体とキレの無い立ち回りにガッカリしたと思う。だからと言って、自虐的なネタをストーリーに盛り込んで欲しくなかった。これは早い話が楽屋オチ。まったくスタイリッシュじゃないし、これじゃパロディ映画と変わらない。
ちなみに僕が一番驚いたのは、英国大使館員役でミスター・ビーンこと、ローワン・アトキンソンが出ていたこと。おかげで余計にパロディ映画に見えてしまった。
さらに音楽も奇天烈である。
ボンド映画の音楽をミシェル・ルグランが担当している。あの「シェルブールの雨傘」のミシェル・ルグランである。頼んだ人間の気も知れないが、受けたルグランの気も知れない。と言うのも「出来ないなら、断れば良かったじゃん」と言いたくなるほどのスコアなのだ。
あるシーンでは座りの悪い曲が、のっぺりと張り付いているかと思えば、ぐだぐだのアクションシーンになんの音楽も付けずに知らんぷりしていたりする。その仕事ぶりはオスカーを3度も受賞した人とは思えないほどだ。
それを許した監督はアーヴィン・カーシュナーである。
カーシュナーはこの3年前にスター・ウォーズシリーズ最高傑作の「帝国の逆襲」を撮っているが、本作を観てしまうと「帝国の逆襲」が面白いのは、少なくともカーシュナーの力じゃないような気がしてきた。この2作品は雲泥の差だ。
ハナシが逸れた。
しかし、「ネバーセイ・ネバーアゲイン」はひとつだけいい仕事をしている。それは人気に陰りの見えていた“本家”007を救ったことだ。
ボンドの身のこなしが軽くなく、「ジェームズ・ボンドのテーマ」も聴けず、なにより作品としての完成度が低いために、多くの観客は「ホンモノの007を観たい」と思ったに違いない。少なくとも僕はそうだった。
この作品は007シリーズの時系列に合わせ、「オクトパシー」のあとに観るのがいいだろう。すると「美しき獲物たち」も、まだマシに見えるに違いない。
ちなみにボンドガール(と呼んでいいのか?)はキム・ベイシンガー。若い。そして身体が柔らかい。観れば意味は分かる。
エンドクレジット。
さすがに「JAMES BOND WILL RETURN」は出なかった(笑)。
シャーロック・ホームズ [2010年 レビュー]
何冊もある原作のうち、最後に読んだ1冊は中学時代だったと思う。
僕が通った小・中学校の図書館にはシャーロック・ホームズシリーズが並んでいた。特に中学時代はかなりの人気で貸し出し率も高かったと記憶している。しかたなく別の本を借りて時間を置いても、未読の本はなかなか戻って来ず、そうこうするうちにアガサ・クリスティに夢中になってしまったこともあって、僕はシャーロック・ホームズを大した数読んでいない。
だからと言っていいのか、僕はホームズがヴァイオリンの演奏に長け、拳闘はプロはだしで、薬物依存症だったことを知らなかった。僕の中でのホームズは今日の今日までインバネスコートに鹿撃ち帽でパイプをくわえた優男(やさおとこ)だったのだ。もちろんロバート・ダウニー・Jrがホームズを、ジュード・ロウがワトソンをやると聞いたときは驚いた。しかしホームズの正体がそうならば面白いと思った。21世紀に蘇える世紀の名探偵はどんな活躍を見せてくれるのか期待した。
が、僕にはまったく面白くなかった。
その理由。ホームズとワトソンが挑む事件が、あまりに突飛だったからだ。
その事件。不気味な儀式を思わせる手口で若い女性が次々と殺されていた。その犯人は黒魔術を操るブラックウッド卿。ホームズの活躍によってブラックウッド卿は捕らえられ処刑されるが、「私はすぐに復活する」と言い残していた…。
表面上は完全にオカルトである。賢明なる観客はまもなく、「これはトリックであり、その謎をホームズが解くのだ」と分かるのだろうが、鈍い僕には分からなかったし、ブラックウッド卿の目的が「世界支配」と聞いて呆れてしまった。少なくとも僕はそんなアクション劇を観たいわけじゃなかった。もっとシンプルな事件で、適度に派手な演出を期待したのだ。
この映画は「変身しないバットマン」だったと思う。スコットランド・ヤードの警部から依頼を受けて事件の解明に乗り出し、天才的な推理力と肉体を駆使して、敵を追い詰め、事件を解決する。…他に方法はなかったのか。
たとえば「グロリア・スコット号事件」をベースに、ホームズが探偵業を志すストーリーでも良かったと思うし、「緋色の研究」をベースにしてホームズとワトソンの出会いから描いても良かっただろう。
しかも今回の映画化は当然シリーズ化を視野に入れた企画だったはず。ならばもっと手堅く、ホームズシリーズの面白さをアピールすべきだったと思う。
ただしキャスティングは悪くない。
実際、一緒に観た妻は「面白かった」と言った。その理由は「ジュード・ロウがカッコ良かったから」だ。キャスティングが突拍子もないストーリーを相殺するのだから、脚本がしっかりしていればもっと良作に仕上がったはずだ。
またガイ・リッチーの編集テクニックは健在だったけれど、CGに頼った過度なアクションシーンはまったく観ていられなかった。残念。
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トランスポーター3 アンリミテッド [2010年 レビュー]
1作目は面白かった。しかし2作目は面白くなかった。その理由。1作目を越えようとした脚本にかなり無理があったからだ(どう贔屓目に見ても、主人公のフランクは6回は死んでだと思う)。
よくある話である。続編が面白くないのは映画界の定説と言っていい。ではなぜ僕は3作目も観てしまったのか。面白いはずも無いのになぜ?うわあああ。僕は馬鹿なのか?
いや。ジェイソン・ステイサムが好きなのだ。
なんたって声がいい。「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」で惚れて、「スナッチ」でLOVEになった。携帯メールの「you've got mail」メッセージがジェイソンの声だったらいいのにと思うほどだ。うはは。そんな着信音シブすぎる(笑)。
肉体もいい。とにかく筋肉の付き方がキレイだ。僕は永らくブルース・リーほど美しい身体はないと思っていたけれど、ジェイソンの身体もかなりいい。使える筋肉ではなく、見せる筋肉っぽいけど。
ハゲ面がいい。ハゲに悪人はいないなんて昔はよく言ったけれど(そんなのウソだ)、とまれ男性ホルモン出まくりな感じが相当いい。顔が小さいからハゲも似合う。
だからってジェイソンの映画なら何でも観るかというとそうでもない。
僕はクルマが好きなのだ。中でも市販車が活躍する映画が好きだ。
1作目はBMWの735iだった。メチャメチャ格好良かった。2作目からアウディがタイアップについてアウディA8 6.0クワトロに乗り換えた。アウディはあまり好きじゃないけど、ジェイソンが乗ると格好良く見える。それに市販車が派手なパフォーマンスをするだけで面白い。
と、そんな理由で観てしまったのだけれど、これは紛れもなく地雷である。
「フランクをクルマから離れられないようにしよう」
というアイディア先行で書かれたプロットがまず気に食わない。ストーリーは完全後付けである。またアクションシーンの編集も懲りすぎててさっぱり意味が分からない。アクションが巧く撮れなかったから編集でごまかしたんじゃないかと思ってしまった(実際そうかも知れないけれど)。
あとリュック・ベッソン、どんだけ赤毛好きなんだ。「WASABI」のヒロスエ思い出したぞ。
ああ、いい映画か観たい。