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グッド・シェパード [2008年 レビュー]

グッド・シェパード」(2006年・アメリカ) 監督:ロバート・デ・ニーロ 脚本:エリック・ロス

 エンドクレジットを観ている最中躊躇した。
 「面白いけど難しい」と書くべきか、「難しいけど面白い」と書くべきか。
 そこでエンドマークを確認したあと、いくつかのシーンを見直して決めることにした。
 結論は前者。
 「いろんな要素が詰まっていて面白い。しかし詰め込みすぎた結果、難解な映画になってしまった」

 難解になった理由はCIA誕生の物語と、CIA最大の汚点とされるピッグス湾事件が同時に描かれているからだ。
 まず「CIA誕生物語」。あんな悪の巣窟みたいなモノが出来上がる話だから、ことは単純じゃない。いろんな事件といろんな人間が絡んでくる。ジョージ・w・ブッシュがメンバーだったことでも有名な秘密結社、スカル&ボーンズについての予備知識も必要。
 そして「ピッグス湾事件」。亡命キューバ人のゲリラ部隊を支援し、カストロ政権の転覆を狙うも、情報漏洩などによって失敗に終わったCIA主導の作戦。
 この2つを同時に描くのは至難の技だ。前後する時代を描くため時系列は崩れ、そこへオリジナルエピソードを加えるから時系列はさらに複雑になる。なのに、どういうわけか主役のマット・デイモンは老けメイクを施さずおよそ四半世紀を演じるため、ビジュアルで確認することも難しい。
 しかし、これら多少の予習をしておけば、本作はなかなか骨のある佳作に映ると思う。

 本作で観客が知るのは「自分の人生でありながら、自分の思い通りにならない歯痒さ」だ。
 特に主人公のエドワード(マット・デイモン)は幼い頃に父を失ってから、確固たる目標を定めることが出来ないまま、合衆国に仕える身になってしまう。一見すると重要な任務に就いているようだが、一個の人間としてのプライオリティは放棄させられたに等しい。選択の余地なしである。
 エドワードが「グッド・シェパード(良き羊飼い)」になってしまった象徴的なシーンがある。
 サム・ジアンカーナ(シカゴマフィアのボス)をモデルにしたとされるイタリア系アメリカ人、ジョセフ・パルミ(ジョー・ペシ)に国外追放かCIAに協力するかを迫るシーン。パルミはエドワードに言う。

 「ひとつ聞きたい。イタリア人には家族と教会がある。アイルランド人には故国。ユダヤ人には伝統。黒人には音楽がある。だがあんたたちに何がある?」

 エドワードは顔色ひとつ変えず答える。

 「アメリカ合衆国です。あなた方はお客だ」

 いいシーンだったと思う。ジョセフ・パルミの説明がほとんどなく分かり難かったこと以外は。
 映画の中に仕掛けられたいくつかの伏線も見どころのひとつ。
 中でも重要な役割を果たすのが、エドワードが若かりし頃、図書館で偶然出逢うローラ(タミー・ブランチャード)だ。耳が不自由という彼女の設定が、のちに登場する通訳のハンナ(マルティナ・ゲデック)で効き、彼女の存在自体がエドワードの人生を別視点から見るきっかけにもなっている。このキャラクターがいるといないとで作品の出来栄えは大きく変わっていただろう。

 予備知識を持たない日本人に167分は退屈だ。しかしケネディ大統領暗殺にも繋がるアメリカの影の歴史に興味があるなら、いくつかの情報を集めた上で観るといい。この世で一番高価なものは金でもダイヤでもなく、その「情報」以外の何物でもないとする世界を垣間見ることが出来るだろう。
 映画を知り尽くした監督の、映画の面白さがいくつも仕掛けられたハードルの高いサスペンス。

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恋の門 [2008年 レビュー]

恋の門」(2004年・日本) 監督・脚本:松尾スズキ

 痛快。
 実は食わず嫌いで今日まで観なかったが、こんなに面白い映画だとは思わなかった。
 これは松尾スズキが「こんな奴らがいて、こんなことがあったら笑えるなあ。ぐふふふ」と妄想したことをそのまま撮っちゃったような映画だ。だから観客は松尾スズキのバカ話に付き合うつもりで観ればいい。映画を観るために構える必要もないし、頭を使う必要もない。僕は脳みそをスキだらけにして、次々と繰り出される“仕掛け”に身を委ねて観た。だからものすごく笑えたと思う。
 一番笑えたのは主人公・恋乃(酒井若菜)の両親を演じた平泉成と大竹しのぶのコスプレ。しのぶさんが「イデオンのコスモとキッチンよ」とニッコリ笑ったときにはのけ反って笑った。
 松尾スズキはこの(どこから飛んで来るか分からない)ブーメラン・フックのようなギャグを作るのが本当に巧い人だ。

 端役で次々と登場する人たちも見どころのひとつ。
 忌野清志郎(こんな隣人いたら楽しい)、塚本晋也(フツーにヘンな男をやらせると妙に巧い)、尾美としのり(まるで別人)、市川染五郎(なんて贅沢な使い方なんだ!)、三池崇史(よく引き受けたなあ)、しりあがり寿(馴染みすぎ)、大竹まこと(ぷぷぷ)、小日向文世(サイコー!)。全員笑える。
 なんでもないシーンを意外なキャスティングでギャグとして成立させるテクニックも絶妙なら、一見突拍子もなく見えるギャグの数々がまったく空回りしていないのもスゴイ。
 空回りは「独り善がり」が生むものだ。そう思えば過去ギャグが空回りしていた映画は、マンガを原作としたものが多かったように思う。相対して本作が空回りしていない理由は、松尾スズキが演劇人であることと無関係ではないだろう。
 演劇は観客を抜きにしては作れない。
 客の拍手、客の笑い、客の涙。演劇とは客が生で観ることによって完成するエンタテイメントである。もしも観客を無視した独り善がりの演劇があったら、客は見向きもしなくなるだろう。
 松尾スズキは長年生の客と対峙することで「客の掴み方」を体得したのだと思う。てっとり早く客をつかむのに有効な手段は「笑い」であり、客を飽きさせないために必要なのも「笑い」。しかし、その分量を間違えると「笑い」は時に「毒」になることも知っている。なんと絶妙なバランス感覚。この感覚を体得している映画監督はほかに三谷幸喜しかいないだろう。

 石を使ったマンガ芸術家というハチャメチャな設定の松田龍平。コメディをやらせても天下一品だった父・優作には到底及ばないが、全く主体性のないダメ男をうまく演じていたと思う。実はストーリーも「単純に巨乳のネーチャン相手に童貞喪失したいだけ」というシンプルな構造が分かり易くて良かった。その相手役酒井若菜。普段はまったく好きじゃないんだけど、不思議と可愛く見えたのは「ヤレそう」だったからか?(笑)。
 いずれにしろ役者を誰一人殺すことなく、巧みに使いこなしていた松尾スズキの演出テクにも感心。
 出色の監督デビュー作。

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中国の植物学者の娘たち [2008年 レビュー]

中国の植物学者の娘たち」(2005年・カナダ/フランス) 監督:ダイ・シージエ

 「小さな中国のお針子」の監督が描く、中国禁断の同性愛映画。
 邦題からまさかこんな内容の映画だとは思いもしなかったけれど、事前に映画の背景を知るときっと観たくなる一篇だと思う。

 まず中国ではタブーとされている同性愛の物語だけに、中国国内での撮影許可は下りなかった。
 また主役のリー・ミン役を演じる予定だった「小さな中国のお針子」のジョウ・シュンは、周囲のアドバイスを受け降板することにした。
 代わりにオーディションに現れたのは中国人の父とフランス人の母を持つミレーヌ・ジャンパノワ。彼女はまったく中国人に見えなかったが、監督は急遽設定を変更しミレーヌを迎い入れた。その理由を「外見のみならず、知性、思想、文化的にミックスされているということは、人に理解されず閉め出された存在で誰よりも愛と優しさを求めるようになる」と話している。
 ミレーヌの相手役をつとめたリー・シャオランと植物学者役のリン・トンフーは共に中国で活躍する俳優だが、当局を恐れることなく出演を決めた。
 そしてロケ地に選ばれたのはベトナム。中国との国境にほど近い場所で撮影され、中国もベトナムもない“アジア”の空気がフィルムに収められている。

 植物学者の娘アンと、実習生として同居することになったリー・ミンが心を通わせていく描写は決して雄弁ではない。途中、「若干説明が足りないんじゃないか?」とも思ったが、それでも僕が強い不満を感じなかったのは、事の成り行きを認知していたからだろう。僕はこの端折り方を悪いとは思わない。「私の頭の中の消しゴム」のように、そもそもの関係を築くところからジックリ見せられる方が時間の無駄だと思う。ミスリードを必要としないテーマが明確なものこそ、無駄な助走は省くべきだ。
 しかし、ドラマとして満足したかと言うと実はそうでもない。何より同性を愛してしまったが故の苦悩はもう一歩踏み込めていない気がする。この問題は本人同士だけでなく、家族も社会も、もっと早い段階で巻き込むべきだった。そうすることによって中国における同性愛の問題を、より深く訴えることが出来たはずなのだ。

 本作は「バンジージャンプする」や「ブロークバック・マウンテン」に嫌悪感を抱かない人なら受け入れられる作品だと思う。そして今の時代に生きていられることを感謝するだろう。

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クワイエットルームにようこそ [2008年 レビュー]

クワイエットルームにようこそ」(2007年・日本) 原作・脚本・監督:松尾スズキ

 精神病棟を舞台にした人間再生のドラマ。
 キャスティングは豪華だし、“ネタ”も“間”も心地良く、一見すると「松尾スズキらしいコメディ」なのだが、冷静に観ると「17歳のカルテ」や「カッコーの巣の上で」とは一味違う、まさに“今のニッポン”を映し出す見事な人物描写がされている。
 中でも主人公の明日香(内田有紀)はケースこそ稀だが、無自覚のままドロップアウトしていく若い社会人の象徴であり、松尾スズキはその“危険な様”を見世物として実に巧く作っていたと思う。

 何より「精神病棟」という非日常の閉鎖空間を、次第に「中も外も大して変わらない」と観客に思わせる演出が楽しくもあり、恐ろしい。
 たとえば元AV女優で過食症の西野(大竹しのぶ)も、自分の髪の毛に火をつけるチリチリ(馬渕英俚可)も、和装で健常者を装う金原(筒井真理子)も、閉鎖病棟にいるからこそ「患者」に分類されるが、見渡せば彼女たちは“外にもフツーにいる”人たちであって、それよりも彼女たちを管理する医師や看護師たちこそ“外では通用しない異常な人”と描かれているところが一種痛快だ。

 ブラックコメディである。
 見世物としてのクオリティを上げたのは女優陣の“座組み”だったと思う。
 内田有紀、蒼井優、りょう、大竹しのぶ。
 まず存在からして自然らしからぬ内田有紀のビジュアルは、見るからに汚い宮藤官九郎と最後まで釣り合いは取れなかったけれど、それでも最低限の違和感を払しょくしたのは彼女自身の演技だったと思う。僕は内田有紀の表情から、人間の適応能力の高さと、人は必ず「どこか」で「誰か」と暮らす生き物であることを教えられた。
 蒼井優は「体重をあと2キロ増やせば外出許可がもらえるの」と言う役を演じるために、相当の減量を果たしたと思う。一瞬わが目を疑うほどの顔痩せぶりで、その姿勢に敬服する。
 りょう。クールビューティの代表格。敵役としては申し分なし。
 大竹しのぶ。天才。もしかしたら「カッコーの巣の上で」の女版ジャック・ニコルソンを演じられるんじゃないかと思うほど素晴らしい演技だった。まさに怖いもの無し。
 そんな中にあって宮藤官九郎も抜群に良かった。放送作家の鉄雄役はきっと“あて書き”だろう。クドカンだからこそ出来た生々しい役どころだったと思う。

 観る人によって感じ入るポイントが違うと思う。
 僕は、「正常」と「異常」を分けるものは「コミニュケーションの成立不成立」であることを学んだ。
 もうひとつ。「周囲を見渡し、バランス感覚を失わなければ、生きることは大して難しくない」ということも。

クワイエットルームにようこそ 特別版 (初回限定生産2枚組) [DVD]

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レーサー [2008年 レビュー]

レーサー」(1969年・アメリカ) 監督:ジェームズ・ゴールドストーン

 日本では「明日に向かって撃て!」の4ヶ月前、1969年10月に公開された作品。
 個人的にモータースポーツが大好きなので(だから先週のHONDA、F1撤退のニュースは心が痛んだ)、いわゆる葉巻型のインディマシンが疾走する映画と聞いただけで観てみたかった1本。

 レーサーのフランク(ポール・ニューマン)はある夜、バツイチ子持ちのエローラ(ジョアン・ウッドワード)と出会う。互いに惹かれた2人はやがて結婚をするが、フランクは何事においてもプライベートよりレースを優先した。そんな中、インディ500マイルレース直前フランクは、チームメートでありライバルのアーディング(ロバート・ワグナー)とエローラの浮気現場を目撃してしまう…。

 残念ながら凡作。
 ニューマンを哀愁のヒーローに仕立て上げようとする映画会社の企みがミエミエでいささか閉口する。しかもニューマン自身が製作に名前を連ねているから、「これじゃトム・クルーズと変わらないじゃないか」と思ったが最後、気持ちが離れてしまい二度とストーリーに戻れない(笑)。
 そんな作品だからニューマンを語るときに名前の挙がらないタイトルなのだけれど、彼のプロフィール上では欠かせない1本。というのもニューマンはこの作品のためにレーシングスクールに通い、結果モータースポーツに熱中するようになるからだ。
 それにしても、どうしてニューマンの相手役がバツイチ子持ちでなきゃならないのか、その設定がどうにも腑に落ちなかった。もっと若くていい女を使えば作品のタッチは違うものになっていたはず。と思っていたらジョアン・ウッドワードはニューマンのホントの奥さんだった。あちゃー。そんなところもトム・クルーズっぽくてちょっとゲンナリ。

 クライマックスのインディ500マイルレースのシーンは実際の映像とオリジナル映像を混ぜ合わせ、うまく編集していたと思う。撮影上の一番のネックはスタンドにエキストラを用意できなかったところだろう。満員にするため必要な人員は40万人。今ならCG処理が施せても当時は無理。ここはカメラをローアングルにしたり、エキストラで壁を作って背景にスタンドが入らないようにしたりと、苦心のあとが見て取れる。
 唯一気に入ったのは、チームのマシンもレーサーも所詮はオーナーの所有物、というシニカルな描写だ。この一連を観ていて僕は「赤いペガサス」(村上もとか著)というマンガを思い出した。この作品は日系F1ドライバーを主人公にしたドラマだが、設定がとにかくリアルで本当によく出来た作品だった。こんな脚本なら間違いなく面白い作品になるのに。

 歴史を振り返れば、のちに「タワーリング・インフェルノ」で共演するスティーブ・マックイーンも71年に「栄光のル・マン」をプロデュース、主演しているけれど、当時はモータースポーツも活況で、アメリカのBIG3も元気で、まさか今のような時代が来るなんて思ってなかっただろうな。モータースポーツファンとしては本当に残念な世の中になったもんだ。

レーサー (リクエスト・ムービー 第1弾) [DVD]

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赤いペガサス (1) (小学館文庫)

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リアリズムの宿 [2008年 レビュー]

リアリズムの宿」(2003年・日本) 監督・脚本:山下敦弘 脚本:向井康介

 山下敦弘の「リンダ リンダ リンダ」以前。つげ義春原作作品。
 駆け出しの映画監督と脚本家が共通の友人である俳優に誘われ旅に出るが、待ち合わせ場所に間を取り持つ俳優が来ない。やむなく顔見知り程度の2人で旅をすることになってしまった…。

 何も知らずに観ると上記の設定がなかなか分からない。確かに「気まずい2人」を描ければいいわけだから設定はさして重要でないものの、知って観るか知らずに観るかで理解度は微妙に違ってくるだろう。
 映画は作り手の人生が大きく反映されるものだ。人間的に未熟な登場人物の2人があり得ない出来事に遭遇しながら、それぞれの引出しに“経験”を増やして行く。その道程だと思って観れば間違いなく面白い。
 旅の途中で起きる出来事は、まるでコントのように突拍子もない。宿の主がとぼけた外国人だったり、定食屋の店員が際限なく横柄だったり。言うなれば「小ネタ集」のような脚本で、それらが観客も身に覚えがあるようなエピソードであるところがいい。描かれているエピソードとまったく同じでなくても、似たような経験をしたことがいくつかあるはずだ。だから決して派手なエピソードはなく、すべてが地味極まりない。それがこの映画の“味”である。

 主演の2人も地味だ。
 長塚圭史はまだしも、山本浩司って。主演はこれが最初で最後なんじゃないか(笑)。
 正体不明の役どころで尾野真千子が出ている。可愛い。可愛いんだけどオーラを感じさせないところがこの女優の凄さだと思った。意外とどこにでもいそうな感じは、長い目で見たとき女優として得かも知れない。彼女のラストショットの可愛らしさは絶妙。ファンは観る価値アリだ。

 この作品はひとことで言うなら、人の価値観を笑うもの。
 どこが笑えてどこが笑えないのか、そんなに親しくない人と観ると、相手を深く知るきっかけになるかも(笑)。

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ブルース・リーの生と死 [2008年 レビュー]

ブルース・リーの生と死」(1973年・香港) 監督:ウー・シン

 ブルース・リーの死後まもなく製作され、短期間香港で上映されたという幻のドキュメンタリー。
 内容は、香港とシアトルでの葬儀の模様を軸に、妻リンダや関係者のインタビューと秘蔵映像で彼の生涯を振り返るものになっている。

 映像作品としてはまったく観ていられません。撮影も編集もボロボロ。ブルース・リーの死がテーマでなければ観る価値なしの“ヘタレ”ドキュメンタリーです。しかし今から35年前。メディアがまだ未成熟だった時代に、このフィルムは重要な意味を持っていたと思います。
 一番は、
ブルース・リーの死にまつわる様々な噂を妻のリンダ自身が打ち消し「余計な詮索をしないで欲しい」と訴えたこと。僕はこのメッセージを発信することが本作のミッションだったんじゃないかと思いました。というのも、実はリーが昏倒した現場は「死亡遊戯」で共演する予定だった女優の自宅。その事実が本作になかったからです。
 「ブルース・リーはどこで最期を迎えたのか?」
 彼の生涯を執筆する作家にとって、これは重要な要素でしょう。しかし、リンダにとっては妙なウワサを呼ぶ要因の一つでしかありません。リーの死亡が確認されたのは搬送されたクイーン・エリザベス病院。リンダの意思を汲み取るなら「意識を失った場所」は全く必要のない情報になるのです。

 本作で公開された「死亡遊戯」の撮影済みフィルムも、当時の人々に衝撃を与えたことでしょう。
 今まで誰も見たことのないカラフルな黄色のボディスーツに身を包み、同じ色のヌンチャクを操るリー。さらに敵の一人として登場するのが身長218㎝のカリーム・アブドゥル・ジャバー。未完の作品を惜しむ声は相当上がったと思います。「このフィルムが公開される予定は今のところ無い」というナレーションも製作者たちの無念を訴えていました。

 ブルース・リーが生きていたら今年68歳。
 一体何本の映画に出ていただろうと思います。そしてどんな年の重ね方をしていたでしょうか。
 永遠のカンフースター。
 それにしても、ブルース・リーの映画を観るたびにヌンチャクを振り回したくなるのは、何故なんでしょう(笑)。

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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [2008年 レビュー]

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007年・アメリカ) 監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン

 2007年のアカデミー賞を賑わせたポール・トーマス・アンダーソン5年ぶりの新作だが、僕はまったく愉しめなかった。その理由はたった1行の字幕を見落としたことによる。
 序盤。一攫千金を狙う山師の男ダニエル(ダニエル・デイ=ルイス)を1人の青年が訪ねてくる。青年の名はポール(ポール・ダノ)。ポールは自分の故郷の牧場に石油が滲み出ている情報をダニエルに売りつける。そのときダニエルはポールに聞く。
 「家族は?」
 ここで僕は「イーライという弟が」という一文を見落としてしまう。これが決定的なミスだった。
 イーライとはのちに重要な役割を果たす登場人物の1人で、なぜかポールの双子の弟という設定。つまりポール・ダノは劇中2度、「はじめまして」とダニエルと握手するのだから、混乱しないわけがない。それにしてもポールとダニエルをなぜ双子にする必要があったのか。僕にはその理由が分からなかった。

 「ダニエル・デイ=ルイス」ショーである。
 158分の本編中、彼が出ていないカットがはたして何カットあっただろう。出ずっぱり感はまるで「ダイ・ハード」のブルース・ウィリス並み。少なくともダニエルが登場しない“シーン”はゼロじゃないかと思う。
 圧倒的な存在感。奇抜な設定。そして劇的な生涯。僕は映画のあとで「もしや実在の人物だったか?」と思った。それほどダニエル・デイ=ルイスは、その時代に生きた人間を迷いなく演じていたと思う。まさにアカデミー主演男優賞に相応しい。
 個人的には音楽も気に入った。
 その旋律は不吉で不穏。基本誰も信じないダニエルの心情を冒頭から奏でる。しかも観客の精神状態をもコントロールしていたと思う。僕は終始、ダニエルをとりまく人間たちに目を配っていた気がする。とにかく心休まるときがないのだ。担当したのは映画界でまったくキャリアのなかったジョニー・グリーンウッド。誰かと思ったら「レディオヘッド」のメンバーだった。このキャスティングはクール。

 それにしても。
 ポールとイーライが双子であることを理解しても、僕はこの映画を愉しめなかったと思う。
 なんといっても救いの無さが辛い。だから実話かと思ったのだけれど。
 少なくとも気楽に観られる類のものじゃない。「マグノリア」よりも「パンチドランク・ラブ」よりも遥かに哲学的な作品。

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド [DVD]

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ベクシル 2077 日本鎖国 [2008年 レビュー]

ベクシル 2077 日本鎖国」(2007年・日本) 監督:曽利文彦 脚本:半田はるか、曽利文彦

 「ピンポン」の監督、曽利文彦によるオリジナルアニメーション。
 テレビ局(TBS)が出資した映画でありながら原作ナシという点が珍しい。よほど監督を買っているのか、それともマーチャンダイジングを独占したかったのか、あるいは別の狙いがあったのか、妙に気になる。

 時は21世紀半ば。バイオ技術とロボット産業の分野で世界市場を独占しつつあった日本は世界中の反感を買い、国際連合主導で規制が強化されつつあった。その動きを受けて日本は国際連合を脱退し、ハイテク技術を駆使した鎖国状態に入ってしまう。
 以来10年。日本国内の様子はまったく分からない状態になり、その実体を把握するためアメリカの特殊部隊が潜入を試みることになった…。

 日本が再び鎖国をするという設定はかなり面白い。そこへ潜入しようとする動機は弱いが、展開としてはかなり期待をした。そして10年ぶりに明らかになった日本の姿は…。意表を突いた有り様に驚いたが、残念なことに大きく広げた風呂敷はたためていない。
 CGアニメーションのクオリティはいい。比べちゃなんだが「スカイクロラ」より全然良かった。ただキャラクター設定は全員イマイチだったと思う。まず主人公ベクシル(♀)とサブキャラのマリアの造型が激似。さらに特殊部隊のリーダー、フェイデンのキャラがあまりに平凡。極めつけは敵役の設定。信じられないほど貧弱すぎる。今年の大ヒット作「ダークナイト」を観ても明らかなように、勧善懲悪のドラマは悪こそ優れたキャラクターでなければ、ヒーローの存在理由はないのだ。

 そういえば、と思い出す。
 この世界観は「ファイナルファンタジーⅦ」に似ている。
 世界を牛耳る巨大企業「新羅カンパニー」。その組織の壊滅を企む反抗組織「アバランチ」。この新羅カンパニーほどの存在感が「ベクシル」にもあれば良かったのにと思う。
 要は脚本なのだ。脚本さえ良いものがあれば日本の技術力で持って、世界に打って出るCG映画は間違いなく作れるのだ。

「ベクシル-2077日本鎖国-」通常版 [DVD]

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JUNO/ジュノ [2008年 レビュー]

JUNO/ジュノ」(2007年・アメリカ) 監督:ジェイソン・ライトマン 脚本:ディアブロ・コディ

 この映画はひと言でいうと優等生。とても良く出来ている。
 未成年の望まない妊娠というテーマを、最初から最後までポジティブに描ききったところがまずエライ。これは本作でアカデミー脚本賞を受賞したディアブロ・コディのセンスによるものだが、監督の力なしにオスカーは手に出来なかったと思う。それほど映像のセンスを感じる作品だった。
 監督のジェイソン・ライトマンは1977年生まれ。「サンキュー・スモーキング」で長編デビューし、「JUNO」は2作目。いずれもローバジェットで作られ、スタートこそ上映館数は少なかったが、結果的に大ヒットを記録している。
 しかし、似ているのは映画の“生い立ち”だけではない。この2作にはもっと重要な共通点がある。それは「笑えない話を、笑える話にした」という点だ。

 監督のセンスを感じたのはオープニングから。
 まるで子供向け番組のタイトルのようなアニメーション。すでに罪の意識は低い。クレジットを処理すると同時に始まるドラッグストアの店員とジュノとの丁々発止。続いて現れる“ピンクの十字架”に、日本風に言うなら「チョーサイアク」と自らを罵るジュノ。この先の展開に興味を抱かない観客は皆無だ。そして、ここまでのテンポも見事だった。
 本編でもうひとつ感心したのは、「SUMMER」や「AUTUMN」など季節が替わることに表示される春夏秋冬それぞれのタイトルバック。ジュノを妊娠させた同級生のポーリーは陸上部の選手で、タイトルバックにはすべて陸上部のランニングシーンが使われている。僕にはこれが笑えた。と言うのも、ストーリーが進むにつれジュノは人間的な成長を遂げていくのに対し、男はまるでハムスターの如くいつまで経ってもバカみたいに走るだけ。これはライトマンの自虐的な演出だったと思う。「出産を控えた女性の前で、すべての男は無力」というメッセージも含んだナイスなカットだった。

 途中、ドラマ「14才の母」を思い出した。
 日本の中学生の妊娠と、アメリカの高校生の妊娠では、世の中に与える衝撃は異なると理解しつつも、同じ題材でこうも描き方が異なるものかと感心したからだ。
 コディの脚本が優れているのは、早い段階で「新たな“命”はすべからく祝福されるべきもの」という方向に舵を切っているところだ。「高校生の妊娠」は笑えない話だが、「新しい命が誰かを幸福にする」と言う話なら笑える話に昇華することが出来る。なんと素晴らしい発想の転換だろう。
 興味本位のセックスで生まれたひとつの命が多くの人間の人生を変えて行く。
 「素晴らしき哉、人生!」の一節も思い出す。

 「一人の命は大勢の人生に影響しているんだ。一人いないだけで世界は一変する」

 「JUNO」の中にも珠玉の台詞がいくつかあった。
 観る人の年齢と性別と環境によって心に刺さる台詞は異なると思う。
 けれど、すべての人に等しく感動があるだろう。

JUNO/ジュノ <特別編>

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