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北極のナヌー [2008年 レビュー]

北極のナヌー」(2007年・アメリカ) 監督:アダム・ラヴェッチ、サラ・ロバートソン

北極のナヌー プレミアム・エディション [DVD]

北極のナヌー プレミアム・エディション [DVD]

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD

 商売っ気丸出しの邦題とアートワークに少々げんなり。
 原題は「ARCTIC TALE(北極物語)」。
 そして、こんなに可愛らしいホッキョクグマの子どもが、全編に渡って出てくると思ったら大きな大間違いです。これはホッキョクグマの「ナヌー」と、セイウチの「シーラ」を何年も追い続けて作られた、ナショナルジオグラフィック製作のドキュメンタリー。ちなみにナヌーが可愛らしい時代は30分程度で終わります(笑)。

 時代が時代だけに地球温暖化防止の啓発ムービーになっています。しかもナショジオですから映像のパワーはハンパじゃありません。
 観れば全員が「正しい地球の在り方」を思い知らされるでしょう。厳しい自然環境と折り合いを付けながら懸命に生きる動物たち。その姿から、「唯一人間だけが地球上で邪魔な存在なんだな」と気付くのです。反省してもし切れないけれど、実は僕たちこそが“エイリアン”だったのです。
 人間さえいなければ皆が幸せだったのに。

 しかし、映画としてドラマの作り込みは緩かったと思う。
 この手の作品はナレーションをどう書き、映像をどう繋ぐかが命なのですが、脚本を書いたチーム(クレジット上は3人いる)は残念ながら“腕”がありませんでした。映像のパワーにライターの力が追いついていません。ライターが優秀なら、人間が知る由も無い自然界のドラマを、もっと劇的に、もっと非情に、もっと神秘的に作れたはず。ちょっと残念でした。

 意外だったのは稲垣吾郎のナレーションが意外と上手かったこと。やるなーゴローちゃん。
 オリジナルのクイーン・ラティファ版も聞いてみたいけど、これは字幕を読むヒマがあったら、映像を観て何かを感じた方がいい。ホッキョクグマはすでに地球上に10,000頭しかいないそうです。こりゃ、どげんかせんといかん。
 やっぱり「アース」も観てみるかあ。


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団塊ボーイズ [2008年 レビュー]

団塊ボーイズ」(2007年・アメリカ) 監督:ウォルト・ベッカー 脚本:ブラッド・コープランド

 今年から「ナニミル?」で「ヘタレ邦題賞」というのを新設しようかと思います。
 近年、一番驚いたタイトルは「フォーガットン(原題:FOR GOTTEN)」
だったんですけど(ガットンってなんだよ、ガットンて)、「WILD HOGS」を「団塊ボーイズ」にしたセンスも心底ガッカリです。だいたいターゲット狭くしてどーすんだよ、コラ。
 それでもまだ映画が面白けりゃ笑って許せるけど、これがぜんぜん面白くねえ(怒)。

 いや、ロードムービー・マニアとしては期待しすぎたと思います。「リトル・ミス・サンシャイン」の項でも書きましたが、ロードムービーに“縛り”はありません。なんでもアリです。ただし「観客の予想を裏切りながらもリアリティを損なわないシーンがいくつも必要」なのです。
 「団塊ボーイズ」の設定はいい。家庭と仕事に縛られ生気を失った中年が、バイクにまたがり男たちだけで旅をすると聞けば、僕たちの世代は期待すると思います。なのにストーリーの軸は勝ち目の無いケンカ騒ぎ。がっかりです。

 トラボルタにも期待していました。
 いや正しくは「トラボルタを使う以上、それなりの映画だろうと期待していた」で、トラボルタは悪くなかった。いつもと変わらないという意味で。反面コメディアンとして期待していなかったウイリアム・H・メイシーは良かった。この人、温水洋一みたいな仕事も出来るんだなあ。
 一番驚いたのは重要なシーンでピーター・フォンダが出てきたこと。これが「ゴーストライダー」とまったく同じ扱いで出て来たので、「いい加減にしろよ!」と毒づいてしまいました。ピーターはすげーカッコ良かったけどね(笑)。

 それにしてもこの映画が面白くない最大の理由は、監督が若いということでしょう。
 人生を折り返していない人間にこの設定で映画は撮れと言っても土台無理な話なのだ。
 カミサンのいない午後、ビールを飲みつつ鼻くそでもほじりながら見ればいい程度のB級映画。

WILD HOGS/団塊ボーイズ [DVD]

WILD HOGS/団塊ボーイズ [DVD]

  • 出版社/メーカー: ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント
  • メディア: DVD
     

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誰も死なない [2008年 レビュー]

誰も死なない」(2008年・日本) 監督:Mr.

 これは、「サバゲーが趣味の女子中学生5人組が、ライバルと一戦交える」
短編です。
 監督は現代美術家・村上隆の一番弟子で、Mr.というアーティスト。
 彼のことを知らずに観ると、映像のシロウトが作った劣悪なロリコン映画にしか見えません。
 しかし、Mr.のアート(特に「サバイバルゲーム」シリーズのペインティング)を観ていれば、充分に理解できる範疇の作品だと思います。

 ただ実際には「この監督は純粋なのか不純なのか」が争点になるでしょう。あるいは「映画を侮辱するな」といった厳しい意見もあるかもしれない。けれど見逃してはならない最大のポイントは、これが「ニーズに合わせて作られた作品じゃない」ということです。
 彼は純粋に内から出(いずる)ものを形にし世に投げただけ。マーケティングを重視したばかりにつまらない作品ばかりになってしまったハリウッド映画や、何をしても売らんかなのAVとは全く別物なのです。言うなれば「クリエイティブの原点」。僕はMr.の「どんな批評も甘んじて受ける」、という気骨を感じました。
 
 つまりこれは「ロリコンマニアに向けて作られた商業ビデオ」ではなく、「自身の性的嗜好を解放することによって生まれたアート作品のビデオ化」であるということ。
 そして、まぎれもないMr.の“新作”です。個展に行くような気持ちで、劇場に行かないと不愉快な思いをするだけになってしまうので注意して下さい。


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ゼラチンシルバーLOVE [2008年 レビュー]

ゼラチンシルバーLOVE」(2008年・日本) 原案・監督・撮影:繰上和美 脚本:具光然

 キャスティングが凄い。
 永瀬正敏、宮沢りえ、役所広司、天海祐希。
 「この4人のスケジュールが1か月空いてるんだけど、いい脚本ないかな?」
 なんて話があったら、日本中の映画人はその瞬間から死に物狂いで脚本を書くことだろう。けれどそんなに美味しい話はまず転がっていない。
 大抵は「A氏が映画を撮るらしい。脚本(ホン)はまだ上がってないけど、内々に出演の打診がある。どうだろう?」という話が、とある筋からマネージャーもしくは役者本人に伝わり、出演のメリット、デメリットを周到に探りながら、結果「脚本を読む前にでやらせてもらうことにした」的なことはままある。
 世に溢れる駄作(あるいは商業的失敗作)は、このような形で進行したプロジェクトが多い。
 最初から最後まで一人の手で作られる“商品”ならまだしも、大勢の人間が製作に関わる“商品”を、設計図ナシに作ることは不可能である。
 役者にも非がある。
 脚本を読む前に(ましてや脱稿前に)出演を決めるということがいかにリスキーであるかは、ほとんどの役者が知っているはずだ。なのに、映画を愛する彼らは、そのリスクをものともせず現場に飛び込んで行く。
 そんな“役者の性”を僕は否定しないが、少なくとも「観客」は蔑にされたに等しい。「あの俳優が出ている映画なら面白いはず」という観客の“保険”はまったく効いていないし、どんな駄作であっても俳優がその責任を取らされることは無いからだ。

 本作の監督である写真家の繰上和美氏は、いつか映画を撮りたいと思いつつ、しかし「1枚の写真すら満足に撮れない人間にムービーは無理」と永らく自身と周囲に言い聞かせて来たらしい。やがて齢70を過ぎてようやくそのタイミングが来たらしく、今回初監督作品をリリースするわけだが、20年以上親交のある宮沢りえも「繰上さんが映画を撮るなら是非出たい」と心に決めていたという。
 宮沢りえが演じるのは殺し屋である。永瀬正敏は殺し屋の住まいを24時間監視する男。永瀬は役所広司にその仕事を依頼されていた。天海祐希は永瀬が通うバーのママ。
 いまどき「殺し屋」という設定にも驚いたが、台詞が極端に少なく、情報量が圧倒的に足りない脚本には閉口した。「写真家の撮った映画」には興味津津だったが、これは商業映画とは呼べない。だから映画ファンには勧めない。
 僕に言わせればこれは「ビデオアート」だ。
 最近コンテンポラリーアートの世界で増えつつある「ビデオアート」。
 僕はこの良さをまだ理解できていないのだけれど、アートは気に入った人が買い「所有」するものである。しかし映画はアートではない。アート的な映画はあっても、映画とは原則多くの人が観て「共有」するものである。
 「ゼラチンシルバーLOVE」は繰上和美という写真家を知らない人間に理解できる映画ではない。これは繰上作品のコレクターが所有すれば良いアートである。

ゼラチン シルバーLOVE デラックス版 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • メディア: DVD

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HANA-BI [2008年 レビュー]

HANA-BI」(1997年・日本) 監督・脚本:北野武

 「アキレスと亀」を観て以来、ぜひ観てみたかったヴェネチア国際映画祭グランプリ受賞作品。
 結論から言うと、「グランプリの理由」は読み取れなかったので、そこには触れないでいく。

 北野作品の特徴でもあるバイオレンス描写はここにも多い。しかし主人公・西(ビートたけし)の行為に限っては、その背景に妻に対する“愛”が存在しており、これまでとは趣が異なる

 映画の中の暴力は、自身のためではなく弱者を守るためであれば、それはエンタテインメントの王道として赦されて来た。だから観客は西の暴力を肯定し、心の平和を勝ち取って欲しいと願う。
 しかし観客の“肩入れ”など折り込み済みの北野監督は、それを裏切ることによってあえて「無常」を訴えた

 半身不随になって退職した同僚の刑事と、殉職した部下の妻に対する西の助力を盛り込んだのも、圧倒的な無常を描くための布石に過ぎない。西は「生きていれば必ずいいことがある」と無言で他人に説く一方、「しかし自分の人生にその価値は無い」と総てを否定するのだ。
 「神は存在して欲しいが、はたして神は存在しない」
 日本人には伝わりにくい。
 けれど宗教に寄り添って生きる人々には重くのしかかるメッセージである。

 一説によると「ソナチネ」と同じ幕引きと言われ、評価を下げる向きもあるという。幸運なことに僕は「ソナチネ」を観ていなかったため、本作の結末は納得の着地だったが、とまれ北野武終生のテーマが、ここに一旦集約されたのではないかと思う。
 例えば、本作以降のバイオレンス描写がどう変化していくのかは確認を要するが、監督自身年齢を重ねるごとに暴力性が希薄になり、一途な人間に対するそこはかとない愛情の芽生えを感じているのではないか。その結果、「アキレスと亀」を生むことになったのではないか、と結論付けるのは早急かつ強引だろうか。

 北野作品は基本多くを語らない。
 しかし本作の場合は表情と仕草と行動が雄弁だった。すべての人に観やすい作品だと思う。
 ヴェネチアの“勲章”抜きに、北野作品を語る上で避けては通れない佳作。
 当時50歳とは思えない、若々しいビートたけしも魅力。

HANA-BI

HANA-BI

  • 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
  • メディア: DVD

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英国王給仕人に乾杯! [2008年 レビュー]

「英国王給仕人に乾杯!」(2007年・チェコ/スロバキア) 監督・脚本:イジー・メンツェル

 とある罪で15年もの刑に服していたチェコ人のヤン。
 すっかり初老の域に達していたヤンは、暮らし始めた山の中で一人の女性と出逢う。肉感的で魅力的な女性の出現に“欲望の目覚め”を悟ったヤンは若かりし頃を振り返る。彼の重要な記憶の一片には必ず女性の姿があった。
 様々な人との出逢いで成長をするヤンだったが、やがてヒトラーのチェコ占領とともに時代の波に飲み込まれて行く…。

 初老の男が若かりし頃のエピソードを振り返るという展開は、僕のような人生折り返した世代には胸迫るものがある。しかも
観客の人生とシンクロするほど平凡じゃないから見世物として面白いし、方や過去の女性との記憶を刺激される側面もあって、人生経験が豊富な観客ほど愉しめる、と言っていいだろう。
 また女性よりも男性向け。
 作品の根底に流れているのは、男の欲求
の肯定と、いかなるときも自分らしさを損なわない生き方のすすめ、である。
 まず登場するすべての女性をポジティブに捉えているところがいい。それが“飾り窓”の女であろうと、ナチの親衛隊であろうと、すべての女性は男を幸福にしてくれる生き物、という主張が一貫していて良い。そしてすべての女性がヤンに優しい。男にとっては夢の極みだ。
 もうひとつ。転職までもポジティブに描かれているところが気持ちいい。まるで“わらしべ長者”のようにステップアップしていく展開は古典中の古典だが、やはり面白い。

 さて本作はチェコスロバキアの歴史を少しだけかじっておくと、さらに理解を深めることが出来る。
 1920年にチェコスロバキア共和国として成立以来、スロバキア共和国の独立、チェコのドイツ編入、ソ連侵攻による社会主義共和国への改称、そしてチェコ共和国とスロバキア共和国に再分離するまで。中欧の小国と呼ばれたり、東欧に分類されたり、まさに時代に翻弄された国の背景を知ることで、名もなき青年の物語にリアリティと愛着が生まれると思う。

 そうは言っても難しく考えなくていい。これは品の良いコメディでもあるからだ。
 美しいチェコの女性を眺めるだけでも(男には)価値アリ。

英国王給仕人に乾杯! [DVD]

英国王給仕人に乾杯! [DVD]

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • メディア: DVD

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厨房で逢いましょう [2008年 レビュー]

厨房で逢いましょう」(2006年・ドイツ/スイス) 監督・脚本:ミヒャエル・ホーフマン

 ドイツ映画で厨房モノと言えば思い出すのはハリウッドでもリメイクされた「マーサの幸せレシピ」。
 あの傑作と比較すべきではないのだけれど、心のどこかで勝手にイメージするものがあったのは事実。映画を観る上で邪魔以外の何物でもない「先入観」というヤツを上手くリセットする方法はないものだろうか。
 
 本作の主人公も、人付き合いが苦手なシェフ。
 幼い頃から料理に目覚め、料理一筋で生きてきたグレゴアは、多くの食通を唸らせる天才シェフとなり、専門書で紹介されるほどの腕前を誇っていた。経営する小さなレストランは数か月先まで予約で埋まるほど大人気。ところが休日はお気に入りのカフェでウェイトレスを眺めるのが趣味という孤独な男だった…。

 いい映画だと思う。
 絵画のようなカット割り、過剰過ぎない自然な照明、編集にも無理がなくて、テンポも間もいい。俳優も演技しているとは思えないほどリラックスしていて言うことなし。但し、唯一脚本だけはリライトの必要があった。狂おしいほどもったいない。
 
 カフェのウェイトレス、エデンはあることをきっかけにグレゴアのシェフとしての腕前を知ることになり、その技と味の虜になってしまう。しかしレストランは数か月先まで予約が一杯。しかも料金が300ユーロと高い。
 さて僕が一番不満だったのは、「エデンがちょっと図々しい女に映ってないか?」ということ。彼女が「私たちは友だち」と言う割に、僕にはその友だちを蔑にしているように映ったからだ。グレゴアも無口で無表情が過ぎた。もったいない。ドラマ序盤から中盤にかけて2人の心理描写が描き切れていたら、この映画は今年のベスト3に入ったと思う。
 しかし。
 観る価値は充分にある。劇中の料理を楽しめない代わり、映画の“後味”だけは観客全員が堪能できるからだ。キャラクターの設定に“味”があるのも見逃せない。ハリウッド映画に飽きた人にはお勧めの一品だ。

厨房で逢いましょう

厨房で逢いましょう

  • 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
  • メディア: DVD

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アポカリプト [2008年 レビュー]

アポカリプト」(2006年・アメリカ) 監督・脚本:メル・ギブソン 脚本:ファラド・サフィニア

 マヤ文明後期の中央アメリカ。
 狩猟民族の小さな村が巨大勢力を誇る部族に襲撃される。襲われた村の男たちは“生贄”にされるため捕虜となるが、そのうちの一人の青年が奇跡的に脱出に成功。しかし強靭な肉体と武器を持った男たちが青年を追いかけ森に入って行く。

 メル・ギブソンにはまず感心することがひとつと、あきれることがひとつ。
 感心するのは、安易な英語劇にしないこと。
 「パッション」のときはアラム語とラテン語。今回も俳優は全員マヤ語を使っている。
 あきれるのは、メル・ギブソンのドSぶり。
 とにかく残酷で、時に目を覆いたくなる。けれど、これこそが彼に映画を撮らせる原動力なのだろう。

 メル・ギブソンにとって映画を撮るということは、「イメージへの挑戦」なんだと思う。
 歴史モノに執着するのもその表れだろう。文献や書籍、あるいは絵画によって作られた人それぞれのベストなイメージを如何に超えていくか。それが彼の目指す“高み”なのだと思う。
 “イメージ”に正解は無い。
 だから、その時代を知る由も無い我々がリアリティの有無を語ることは出来ない。
 しかし、観客のイメージを大きく逸脱することなく、ましてやその時代へタイムスリップしたような感覚を観客に与えられたなら、メル・ギブソンの仕事は成功したと言っていいだろう。
 本編の冒頭はまさにそんなシーンだ。村の青年たちが深い森の中で一頭のバクを仕留める件。獲物を手に村に帰ると、続いて村での暮らしが描かれる。この一連は実に良く出来ていたと思う。問題はこの先の展開だ。

 ※この先ネタバレします。

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人のセックスを笑うな [2008年 レビュー]

人のセックスを笑うな」(2007年・日本) 監督:井口奈巳

 原作は芥川賞候補にもなった山崎ナオコーラの恋愛小説。
 主要キャストは男と女が2人ずつ。これだけならフツーの恋愛ドラマだけど、男2人と女1人は19歳。で、もう1人の女が39歳ってところがミソです。原作未読。
 タイトルから何を想像するかは勝手ですが、内容はとても繊細な恋愛ドラマ。

 39歳の非常勤講師ユリ(永作博美)と恋に落ちた19歳のみるめ(松山ケンイチ)。みるめに好意を寄せていた同級生のえんちゃん(蒼井優)はそれに少なからずショックを受け、共通の友人である堂本(忍成修吾)もまた複雑な思いで2人を見ていた…。

 性別と年齢によって感情移入するキャラクターは変わります。そして多くの人が、タイトルの意味を考えながら観た(観る)と思います。僕もその1人。そして「セックス」と言うワードを別の言葉に置き換えられたら、それがそのまま映画の感想になります。
 僕は「人の“はじめての恋”を笑うな」としました。その心は。
 やっぱり最初の恋愛っていろいろマヌケなんですよね、男も女も。特に男があたふたしてる様は見られたもんじゃありません。本編のみるめも相当カッコ悪いヤツです。カッコ悪くて「オマエなにやってんだよ」とか言いたくなっちゃう。何故ならみるめはかつての自分だから。
 仮にはじめての女性が経験豊富な年上で、しかも可愛らしくて魅力的な女性だったら、住所を調べて自宅まで行きたくなる気持ちも分かります。だって逢いたい(=ヤリたい)んだもん。
 一方で女性はどういう感想を持ったのか、とても興味があります。良かったら誰か教えてください。
 それにしても「男子学生と女性講師の恋愛」という構図は「あるスキャンダルの覚え書き」と同じです。素材は一緒でもテーマが違えば作品の仕上がりはこうも違うという好例でした。

 本作のみどころは、永作博美と蒼井優の“芝居”です。
 監督の井口奈巳はズームを一切使わず、基本フィックスと横移動のドリー(あるいはレール)ショットのみで本編を構成しています。よってワンカットが幾分長くなり、おかげで観客は落ち着いて役者の“芝居”を堪能することが出来るんですが、まあなんたって蒼井優が絶品です。
 彼女は平凡な女の子を演じるとき天才的な演技を披露しますが、最近観た中では本作が一着。僕は彼女ほどフレームの外にいるスタッフの気配を消してくれる女優を知りません。
 と言うわけで本作は、蒼井優を観るだけで1,800円払う価値ありの映画なんですが、実は永作博美もそれに輪をかけて良いんです。何が良いってユリって女が「嘘くさくない」のが良い。
 俳優は「設計図上のアウトラインしかないキャラクターに、血を通わせ命を吹き込むこと」が仕事なのですが、永作博美の場合は、「彼女の肉体をメディアにして存在しないはずのキャラクターが降臨した」かのような凄みがある。蒼井優とは別の意味で感動しました。
 
 完全に女優2人の映画。余計な期待をしないで観ればきっと愉しめます。

人のセックスを笑うな

人のセックスを笑うな

  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
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タロットカード殺人事件 [2008年 レビュー]

タロットカード殺人事件」(2006年・イギリス/アメリカ) 監督・脚本:ウディ・アレン

 自主上映会の夜、ばくはつごろうさんが「上唇の上で死にたい」と悶えた“世の男たちのミューズ”、スカーレット・ヨハンソンの一篇。「マッチポイント」に続くウディ・アレン作品。
 「マッチポイント」と比べるとこちらはいささか軽いです。
 ウディがスカーレットともう1度仕事がしたくて、彼女の熱が冷めないうちにあわてて書いた脚本のような、それくらい力の抜けた作品。ここで言う「力の抜けた」は好意的な意味ではありません。コメディにもサスペンスにもなっていない、「パンチに欠けた」映画と言う意味です。
 
 原題は「SCOOP」。
 報道記者を目指す学生のサンドラ(スカーレット・ヨハンソン)は、マジックショーの最中にジャーナリストの幽霊と対面し、巷を賑わす連続殺人事件の犯人を告げられる。このスクープをモノにして新聞社に売り込もうと考えたサンドラは、マジシャンのシドニー(ウディ・アレン)を相棒に犯人を追い詰めようとするのだが…、というストーリー。
 スカーレット主演ですからもちろんちょっと色っぽいハナシになったりしますが、期待したほどじゃありません。なんたって本編でのスカーレットはずーっとダサい眼鏡をかけてます。「メガネっ娘」好きにはいいかもしれませんが、個人的にはそれだけで面白味が半減。プールで水着になるシーンが1度あって「おおっ!」と思いましたが、それっきり。以外はスタイリングもダサい。
 他に何を観ろっていうんだ!
 と、大きな声を出したくなるくらい、スカーレットに関しては期待ハズレな映画。
 言い換えれば、スカーレットを使った意味が全く分からない映画なので、スカーレット狙いの人は回避すべし。

 ウディ・アレンというパフォーマーが好きならいいかも知れません。まるでマギー司郎さんのように古臭いマジシャン役を気楽に演じてて、ときどき笑えます。ときどきですけど(笑)。
 唯一面白かったのは「死神の船」というアイディア。
 死んでしまった人たちが、どこへ向かうとも分からない船の上にいて、「オマエはなんで死んだ?」なんて会話をしているシーンは笑えました。

 しかし、「ウディ・アレンのミステリー」を期待させる邦題も問題ありですね。

タロットカード殺人事件

タロットカード殺人事件

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